受講メンバーを全国で28名に厳選し、遂に「日本統合医療研究会 がん特別部会」のセミナーがスタートしました。ここで、我々がなぜこの特別部会を立ち上げたのか、その趣旨を説明する必要がありますね。
SUMMARY
①薬局・薬店として、「がん」に関するエビデンス(根拠)に基づいた適切なあらゆる情報を、がん患者さんとの家族を含めた地域住民に提供する≪情報基地≫となることをめざして≪日本統合医療研究会「がん」特別部会≫を創設する。
②≪同 部会≫は、部会員が現行の医療システムの中に、予防医学・栄養学・心理学・その他の統合医学を効率的に組み込んで、地域住民に現在的に最良の情報提供ができる「専門家集団」になる為に真摯に研鑽するとともに、薬業人として各分野の専門家との役割分担を果たすネットワークの構築を目指す。
=はじめに=
近年、いろいろな診断・治療法の開発にも拘わらず、「がん」による死亡数は増加の一途をたどっています。早期診断・早期治療が当面の目標ですが、究極的には予防が重要である事は言うまでもありません。西洋医学を基礎とした癌予防学として癌ワクチンは研究途上にあり、広く臨床応用せれるには至っていないのが現状です。一方、癌の治療には、手術療法・化学療法・放射線療法の3大療法の他、免疫療法・温熱療法などがあります。近年3大療法の各々に於いて患者さんのQOLを重視した様々な試みがなされていますが、残念ながら患者さんの満足度は高いとは言えません。とくに高齢者における治療では、腫瘍自体は切除ないし縮小しても、実際の生存期間の延長が得られなかったり、QOLを損ねる場合のあります。
=西洋医学の現状=
現代西洋医学的な「がん」の治療方針は、癌の進行度、組織型、年齢、合併症の有無、全身状態などを考慮して、総合的に決定されます。したがって、治療方針の決定には腫瘍側と同時に宿主側条件も考慮されます。しかし、治療する際には癌細胞を直接攻撃する手段がほとんどであり、近年の血管新生阻害療法などもあくまで腫瘍そのものに対する抗腫瘍効果を期待しています。もちろん腫瘍免疫を活性化しようとする試みもありますが、あくまでも体外から補う、と言う発想です。また、化学療法や放射線療法の副作用対策も対症療法が主体となっています。 一方、いかに患者さんの命を救うか。そしてどう患者さんの生活の質(QOLI)をを落とさずに治すかと言う、ふたつの方向での研究が大きく前進しています。とくにここ数年は進歩のスピードが加速化し、分子レベルで「がん」の正体が解明されてきた結果、新しい治療法が次々に登場し、「がん」治療の常識まで変えようとしています。
=統合医学的発想=
近代西洋医学の進歩は、現在、成熟の域に達したとして、内部的な問題の解決を求め、その結果として。相補・代替医療への関心が高まっています。ここに、近代西洋医学を否定することなく、相補・代替医療を無批判に受け入れることなく、患者さんの為の個人的医療を目指して、これらを統合しようとするのが統合医療であり、第3の医学とも呼ばれています。統合医学には、主に生体の自然治癒力・生体防御機能を高めようという発想があります。また、免疫系や造血系に作用して化学療法や放射線療法による様々な副作用に対処しようとしています。医療現場でも、漢方製剤をもちいて進行癌や末期癌に立ち向かう例がありますが、その薬剤のみで癌を完治させることは殆ど不可能です。西洋医学においても特に化学療法の奏功しにくい固形癌の患者さんには、むしろ癌を持ちながらもQOLの高い生存期間を延長させることに主眼がおかれつつあります。このような治療の流れにおいては統合医学(およびその発想)が寄与することは充分可能と考えられます。
=「がん」予防への統合医学的アプローチ
生活習慣による「がん」予防の重要性が指摘されています。これまで欧米で推奨されている「がん」予防法としての生活習慣の改善の多くは、ある意味では東洋医学が元来示している事柄です。癌の一次予防には、今後は地域社会も含めた広い層への生活習慣の改善に向けた啓蒙が重要と思われます。例えば、東洋医学では健康と病気の様々な半健康な状態、病気の前段階を「未病」と呼び、これを治療することが「良医」とされていました。
健康から未病そして病気へと至る過程に、遺伝的背景・体質や生活習慣(食事・嗜好品・運動)が影響しています。「がん」の自然史においては、その多くが潜在癌の状態であり、癌の顕在化を抑制する事が癌の未病対策とも言えます。 「がん」の顕在化の要因としては、慢性炎症、酸化的ストレスによる遺伝子異常、細胞増殖活性の亢進、免疫能低下による癌細胞の増殖促進などがある事から、これらを改善することにより、癌の顕在化を抑制する事が可能になります。仮に東洋医学的概念である「於血(おけつ)」「気滞(きたい)」などという病態を微小循環障害・組織虚血・うつ状態などと解釈すると、癌の発生・進展に及ぼす影響が理解しやすくなります。
目に見える癌組織はいわば氷山の一角に過ぎず、その基盤にある色々な半健康状態を、漢方方剤の他、食事療法(延長線上に機能性食品)や鍼灸などによって全人的に対処する必要があります。
=栄養学に関する知識の必要性=
本来、食品は栄養としての一次機能、味覚などの感覚器への刺激としての二次昨日、生体調節機能としての三次機能を有しています。近年食品成分の疾病予防効果など食品の三次機能に関するエビデンスが蓄積されつつあります。したがって最新の栄養学の知見を予防医学に活かすことが今後ますます重要になってきます。今後この分野での教育・啓蒙活動の充実が望まれます。
=健康(機能性)食品について=
「がん」の治療においては、患者さんをはじめ、その家族は藁をも摑む思いであり、病院から処方される治薬のほかに健康(機能性)食品を使用している人はたくさんいます。
その中でも、複合キノコ系(植物性)多糖体であるAHCC、単キノコ組織のアガリクス、マイタケ、霊芝、メシマコブなどは、多糖体のグルカン成分がリンパ球を刺激し、抗腫瘍活性をもつサイトカイン(インターロイキン12やガンマ・インターフェロンなど)を産生させるといわれています。 キノコ系としては保険薬価に収載されているクレスチン(カワラタケ由来)、レンチナン(シイタケ由来)などがよく知られています。
しかし、実際に癌が縮小したり、延命できた例があっても、その製品の有効性の評価・証明は難しく、実際の使用(併用)においては課題が多いのも事実です。病気のことを勉強し、がん治療の限界を理解している人ほど、このような機能性食品を求める傾向もあり、臨床医としても決して無関心・無理解では今後の癌診療には対応できないだろうと言われています。
=健康(機能性)食品~代替医療に関する情報の混乱
テレビ・雑誌を初めとしたマスメディアのよって、(健康)食品の疾病予防・治療効果などの代替医療に関する話題を取り上げ、その効果を吹聴することが盛んにおこなわれています。このことが、一般の人達が代替医療に過大な期待を抱く一つの要因になっています。しかし、それらの情報は多くが科学的、公正であるとは言えません。
ワイドショーなどの娯楽番組で健康に関する話題をとりあげる時よく使われる手法があります。それは一見科学的な実験の形をとり、あたかも科学的に証明されたものと言う印象を視聴者に与えるものです。例えば主婦何人かに実験台になってもらい、1週間○○(食品)を食べてもらい、1週間経ったら効果を見るという形が多いようです。
医学的な眼で見れば対象の選別法(明らかにされていない)、対象の数(少なすぎる)、コントロールをとっていない、等々から実験の態をなしていないのは明らかで、さらに効果をみる方法にも首をかしげるものが多いのですが、一般視聴者は「実験」を見せられるとその結果が科学的な根拠だと、錯覚してしまっています。
さらに、単に音声で情報を受け取るのと異なり、画像として情報を「見る」と印象に残り易いのです。司会者にカリスマ性があり、視聴者を一種陶酔させる話術の持ち主なら尚更ということになります。このような番組ではこのあと、さらに権威付けとして農学博士や薬学博士、場合によっては医学博士が出てきて「この食品は○○という成分が含まれており、これには○○と言う働きがある」と説明する趣向になっています。
もちろん医学的に見れば最初の「実験」と後の解説にある成分の薬効が結びついている「証明」はないのですが、一般視聴者にとってはこれで充分説得力があり、その日の夕方にはその「食品」を求める主婦が殺到してスーパーやドラッグストアの棚から特定の「食品」や「製品」がなくなってしまうということになります。
この手法はどこか新聞・雑誌に広告によるバイブル商法にも通じています。
健康(機能性)食品~代替療法に関する情報を提供する立場にある薬局・薬店には、より科学的、公正な眼が求められる時代が来ています。
これらを具体的に研鑽・研究・検証していこうというのが≪日本統合医療研究会 「がん」特別部会≫です。 将来的には、癌研究者・臨床医師・薬学研究者・栄養学士・看護介護研究者・保健活動研究者・検査技術師・関心を持つ各界の一般アドバイザーなどの方々とのネットワークの構築をめざします。
そして、その道の研究者ならびっくりするような先生方に(多数!)ご賛同頂いた上講義頂く事になりました。私も会長と言う立場を仮に抜きにしても、ライフワークとして取り組む覚悟です。
=同日、講義について=
第1回の講義は九州大学大学院医学研究員の桑野隆先生、九州大学名誉教授・久留米大学教授の桑野信彦教授をお招きして開催。「癌という病気、その発祥の仕組み」をもう1度1から掘り下げ、さらに「癌治療の最前線、癌征圧の新しい幕開け」と言うテーマで癌研究医の先生方の闘いをお教え頂き、強いインパクトを受けました。講義の内容を公表する訳にはいけませんが、ほんのさわりだけ申しますと「癌は遺伝子の異常による病気である事」、「P-糖蛋白質を代表するABCトランスポーターが発現すると抗癌剤に対する多剤耐性の獲得や感受性を変化させる=抗癌剤がキチンと効かなくなる」など盛りだくさんの1日でした。
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